女優ヘディ・ラマーと無線技術
最近クリエイティブ・コモンズについて考えたこともあって「コモンズ」ISBN:4798102040る。そこで、本題とは全く関係ないところで、最初に読んだ時にびっくりしたことを思い出した。p.131あたりからの、ヘディ・ラマーという女優による無線の研究の結果が、現在の携帯電話に応用されているということ。
このことについてのweb上の文章は、英語ならば割とたくさん見つかった。以下にいくつか挙げておく。
- http://www.ncafe.com/chris/pat2/index.html (「コモンズ」注についていたURL。ラマーの共同研究者ジョージ・アンテイルの息子による文章らしい)
- http://www.astr.ua.edu/4000WS/didyouknow.1.html ("4000 Years of Women in Science" というサイト内の文章)
- http://www.hoxie.org/news99/senior99/hedy1.html (高校生の自由研究らしい。写真が多い。高校生だけあって英語が分かりやすい。)
- http://britneyspears.ac/physics/intro/hedy.htm (よくわからんけどブリトニー・スピアーズのファンサイト内にある。下に書いた回想録はゴーストライターによるもので、本人は認めていないと書いてあるなぁ。ううむ)
わたしはこの女優を「忘れられた女神たち」(川本三郎)ISBN:4480853219。この本は、1920年代から50年代にかけてアメリカで活躍した20人の女優・女性文化人を紹介するもので、ヘディ・ラマーはその最初に掲載されている。これによると、ヘディ・ラマーは1914年にウィーンで生まれ、1933年に「春の調べ」という映画で、映画史上はじめて全裸になった。生涯に6回結婚していて、本人の性格も女優としての位置付けも、いわゆる“魔性の女”。自分の回想録*1には「私は色情狂といっていい」と書き、すごい男性遍歴を赤裸々に*2披露した――というわけで、とても無線の研究をするような人には見えないし、「忘れられた〜」にはそういった記述は全くなかった。
なので、「コモンズ」を最初に読んだ時には「まさかね〜同姓同名の女優がいるのかな?」などと思っていたが、今回調べてみたらやはりこの人だった。日本語でこの人の人生と無線研究を結びつけた文章は検索してもweb上には見当たらなかったので、簡単にまとめておく。
ヘディ・ラマーの最初の夫はフリッツ・マンドルという20歳年上の大金持ちの武器商人で、女優としての彼女を見初めてプレゼント攻勢で結婚に持ち込んだ。夫は結婚後「春の調べ」をはじめて見て、妻の全裸姿を世界から消そうと、「春の調べ」のプリントをすべて買い占めようとした*3くらい嫉妬深い人間だった。彼女はそんな夫のもとで、しばらく贅沢三昧だが軟禁状態の暮らしをしていたが、召使いに変装して逃げ出し、ハリウッドに渡って女優業を再開した。
ヘディ・ラマーは、この夫から武器のことを学び、その中には無線技術に関する知識もあった。その知識を生かして、その後パートナー*4のジョージ・アンテイルとの共同研究をし、1947年に特許を取った。彼女の友人に、ヒトラーの愛人だったことがあり、ゲシュタポの監視に耐えられず自殺した女性がいた。そのせいかナチスドイツを嫌っており、アメリカに技術を役立ててもらうために研究したようだ。作曲家でもあるジョージ・アンテイルがピアノを弾いているとき、様々な鍵盤をたたいているのにコミュニケーションは続いていることから、受信する周波数を次々に変えることで、潜水艦同士が検知されずに通信できる、というアイデアが浮かんだという。この研究はアメリカの国防総省に取り上げられたが採用されず、その後80年代半ばまで機密扱いになっていた。これは送信データをパケットに分け、幅広い周波数帯を使って送信し、受信側で組み立て直すインターネット技術と同じであり、無線でこれを行っているのは携帯電話である。
ヘディ・ラマーは2000年に亡くなったが、この研究で1997年にEFF Pioneer Awardsの特別賞を受賞している。
この人の映画は見たことがないのだけど、写真を見る限りとても端整な顔立ちで、黒髪を真ん中分けにするのが似合っている。「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リーも真似したこの髪型はこの人がはじめたのだとか。
- 女優としての生涯の簡単な説明(日本語):http://www.hochi.co.jp/html/whatday/what/01/0119.htm
- 画像集へのリンク:http://www.linkclub.or.jp/~hs0905/he/HedyLamarr.html
(参考:「忘れられた女神たち」、「コモンズ」、ほか上に挙げたウェブサイト)