東京育児日記

子どもが寝ているあいだに書くブログ

女優ヘディ・ラマーと無線技術

最近クリエイティブ・コモンズについて考えたこともあって「コモンズ」ISBN:4798102040る。そこで、本題とは全く関係ないところで、最初に読んだ時にびっくりしたことを思い出した。p.131あたりからの、ヘディ・ラマーという女優による無線の研究の結果が、現在の携帯電話に応用されているということ。

このことについてのweb上の文章は、英語ならば割とたくさん見つかった。以下にいくつか挙げておく。

わたしはこの女優を「忘れられた女神たち」(川本三郎)ISBN:4480853219。この本は、1920年代から50年代にかけてアメリカで活躍した20人の女優・女性文化人を紹介するもので、ヘディ・ラマーはその最初に掲載されている。これによると、ヘディ・ラマーは1914年にウィーンで生まれ、1933年に「春の調べ」という映画で、映画史上はじめて全裸になった。生涯に6回結婚していて、本人の性格も女優としての位置付けも、いわゆる“魔性の女”。自分の回想録*1には「私は色情狂といっていい」と書き、すごい男性遍歴を赤裸々に*2披露した――というわけで、とても無線の研究をするような人には見えないし、「忘れられた〜」にはそういった記述は全くなかった。

なので、「コモンズ」を最初に読んだ時には「まさかね〜同姓同名の女優がいるのかな?」などと思っていたが、今回調べてみたらやはりこの人だった。日本語でこの人の人生と無線研究を結びつけた文章は検索してもweb上には見当たらなかったので、簡単にまとめておく。

ヘディ・ラマーの最初の夫はフリッツ・マンドルという20歳年上の大金持ちの武器商人で、女優としての彼女を見初めてプレゼント攻勢で結婚に持ち込んだ。夫は結婚後「春の調べ」をはじめて見て、妻の全裸姿を世界から消そうと、「春の調べ」のプリントをすべて買い占めようとした*3くらい嫉妬深い人間だった。彼女はそんな夫のもとで、しばらく贅沢三昧だが軟禁状態の暮らしをしていたが、召使いに変装して逃げ出し、ハリウッドに渡って女優業を再開した。

ヘディ・ラマーは、この夫から武器のことを学び、その中には無線技術に関する知識もあった。その知識を生かして、その後パートナー*4のジョージ・アンテイルとの共同研究をし、1947年に特許を取った。彼女の友人に、ヒトラーの愛人だったことがあり、ゲシュタポの監視に耐えられず自殺した女性がいた。そのせいかナチスドイツを嫌っており、アメリカに技術を役立ててもらうために研究したようだ。作曲家でもあるジョージ・アンテイルがピアノを弾いているとき、様々な鍵盤をたたいているのにコミュニケーションは続いていることから、受信する周波数を次々に変えることで、潜水艦同士が検知されずに通信できる、というアイデアが浮かんだという。この研究はアメリカの国防総省に取り上げられたが採用されず、その後80年代半ばまで機密扱いになっていた。これは送信データをパケットに分け、幅広い周波数帯を使って送信し、受信側で組み立て直すインターネット技術と同じであり、無線でこれを行っているのは携帯電話である。

ヘディ・ラマーは2000年に亡くなったが、この研究で1997年にEFF Pioneer Awardsの特別賞を受賞している。

この人の映画は見たことがないのだけど、写真を見る限りとても端整な顔立ちで、黒髪を真ん中分けにするのが似合っている。「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リーも真似したこの髪型はこの人がはじめたのだとか。

(参考:「忘れられた女神たち」、「コモンズ」、ほか上に挙げたウェブサイト)

*1:この回想録はゴーストライターの手によるものだったみたい。名誉毀損でライターを訴えている。 id:yuco:20040502#p2

*2:過去の夫やボーイフレンドとどういうセックスをしたかということまで書いてあるようだ

*3:彼は二年間買い占めの努力を続けたが、その噂が流れたせいで、プリントはますますコピーされ、値段がつり上がり、ついに断念したという

*4:「コモンズ」にはこうあったが、こういう場合恋人と取っていいのかな?